わたしたちは今、イエス様の降誕祭を準備する待降節を過ごしています。待降節とは、言葉通り、イエス様が降りて来られることを待つ時です。イエス様は、神様の独り子であり、神様の御言葉そのものであり、まさに、神様ご自身でもあるのです。それを考えたら、神様は罪と死に打ちひしがれているわたしたちを救うために、自らわたしたちと同じ人間となられたとも言えるわけです。そのイエス様を通して、神様がなさった救いの御業とは何でしょうか。
それについて、年間週日の五番目の叙唱は次のように語っています。「あなたはみことばによってすべてをお造りになりました。みことばである御子は、救い主、あがない主としてわたしたちに遣わされ、聖霊によって人となり、おとめマリアから生まれ、み旨を果たして、人々をあなたの民とするために、手を広げて苦難に身をゆだね、死を滅ぼして復活をお知らせになりました。」と。この叙唱が示しているのは、人間となられ、人間の罪をあがなうために十字架上で命をささげられたイエス様を通して、人間は救われたということでしょう。そして、その人間となられた神様の御言葉であるイエス様を通して救われた人間を、神様はご自分の新しい民として認めてくださったことが明らかに示されているのです。そこで、降誕祭は神様の新しい民の頭の誕生日であり、わたしたちは今、その偉大な頭の誕生を準備しているわけです。では、どういう風にその誕生を準備すべきでしょうか。
今日の福音は洗礼者ヨハネの洗礼活動について語っています。ヨハネは荒れ野で、「らくだの毛衣を着、腰には皮の帯を締め、イナゴと野蜜を食べていました。」その姿は、旧約時代の多くの預言者たちを思い起こさせるものだったでしょう。事実、ヨハネは旧約、つまり、モーセを通して結ばれた神様との昔の契約の最後の預言者でした。その荒涼とした荒れ野で、彼は僅かでみすぼらしい食べ物に頼りながら、数多くの人に洗礼を授けていたわけです。彼の洗礼は、罪のゆるしを得させるための悔い改めの洗礼でした。言い換えれば、彼の洗礼は罪を赦すための洗礼ではありませんでした。彼はただ、罪のゆるしのための真の洗礼を準備させるため、彼は洗礼活動をしていたのです。その真の洗礼の授け主とはだれでしょうか。それは言うまでもなくイエス様でしょう。洗礼者ヨハネは、イエス様の来られるのを準備させるために、人々を荒れ野に導いていたわけです。それは、すべての人が「主の道を整え、その道筋をまっすぐにする」ためで、その道の準備のためには、先ず、荒れ野に行かねばならないのです。
その荒れ野とはどんな場所でしょうか。それは文字通りに、荒涼とした荒々しい野原。人の命を脅かす様々な形の危険がある所です。そこは、行ったら死ぬかもしれないところ、ですから、誰もが行きたくないところでしょう。そこに行くには、かなりの勇気が必要ですし、自分の命を失うことも覚悟をしなければなりません。一体、洗礼者ヨハネは、なぜ、そんなところにすべての人を導いていたでしょうか。それは、自分の先祖たちのことを思い起こさせるためだったでしょう。つまり、神様だけにすべてを委ねて、四十年間、荒れ野の道を辿った先祖たちのことを思い起こさせるためだったのです。その昔の人たちは紅海を渡って荒れ地をたどり、更に、ヨルダン川を渡ってようやく約束の地に着きました。それと同じく、ヨハネはヨルダン川で、神様の新しい民の新しい約束の地の与え主の来られるのを準備させていたわけです。
その「荒れ野」とは、単に目に見えるある場所を指すのではありません。すべてを神様に委ねなければならないところ、それが「荒れ野」です。神様のみ言葉に従い、神様の意向に適う生き方に沿って生きるために、世の中の知識や物事、自分の考えや経験にとどまることなく、それから離れることが、神様の新しい民にとって「荒れ野」となるのです。勿論、その荒れ野に足を運ぶには、相当の勇気が必要でしょう。でも、洗礼者ヨハネは、その荒れ野に多くの人々を導きました。その荒れ野で、神様の御言葉であるイエス様との出会いのための準備ができるからでしょう。わたしたちもその荒れ野に導かれているのです。
ここで、目を閉じて想像してみましょうか。「今、果てなく広い荒れ野が目の前にあります。そこに、多くの足跡があります。その多くの足跡の先には、何があるでしょうか。そこには、救い主、あがない主、神様の新しい民の頭であるイエス様がおられます。でも、みんなが一斉にそこへ向かったわけではありません。きっと、最初の人がいて、みんな彼の足跡について歩いたはずです。彼の名はヨハネ。彼の足跡について、一人、もう一人、そして数えきれない多くの人が、そこへ足を運んだのです。その足跡の形は色々です。両足の足跡もあり、片足の足跡もあります。松葉づえとともに歩いた痕跡もあり、杖一本に支えられて歩いたものもあります。みんなが共に、一緒に、救い主との出会いの準備をするために、喜び合いながらそこへ行ったに違いありません。わたしたちも行ってみましょうか。自分を捨てて。」神様の豊かな恵みが注がれる待降節となり、主の降誕祭の喜びを共に味わうことができますように。アーメン。